キューエスシー(QSC)
品質・接客・清掃を“同時に”揃えるための経営フレーム
QSCは Quality(品質)/Service(接客)/Cleanliness(清潔) の略です。もともとは外食で広まった用語ですが、今では小売や各種サービス業でも、日々の運営を評価・改善するための基本フレームとして使われています。重要なのは、三つを個別に良くするのではなく、同時に一定水準で揃えることです。どれか一つでも欠けると、体験全体の印象が崩れ、口コミや再来率が下がります。
Q:品質——“規格どおり”が体験の土台になります
品質は、単においしい・高性能という抽象論ではありません。フランチャイズでは「規格通りのものを、規格通りの条件で、規格通りの時間に提供する」ことが品質の定義になります。飲食ならレシピ遵守、提供温度・重量・盛付け、仕込みの歩留まり、アレルゲン表示までが含まれます。小売なら陳列の鮮度・欠品率・不良率、サービス業ならサービス手順の再現性が該当します。規格を守るとばらつきが減り、教育も早く終わるため、結果的にクレームが減り粗利が安定します。
S:接客——スピードと安心の“両立”が評価を決めます
接客の良し悪しは、笑顔や言葉遣いだけで決まりません。待ち時間の短さ/説明の分かりやすさ/一次対応の早さが揃うと、安心感が生まれ、多少のミスが起きても信頼を回復しやすくなります。非対面が増えた今は、セルフレジ・モバイルオーダー・チャット応対など“人を介さない接客”の体験設計も接客の一部です。画面の文言、案内の分岐、返金や再送のフローまでを含めてホスピタリティの設計だと捉えると、抜け漏れが減ります。
C:清掃——“見える清潔”と“記録で守る衛生”
清掃はもっとも軽視されやすい領域ですが、最初の3秒での印象を決めます。床・トイレ・ガラス・什器の手垢は、味や商品知識より先に目に入ります。さらに衛生は法令・事故防止の観点から記録で守るのが鉄則です。温度・期限・希釈濃度・ATPふき取りなど、数値と写真で残すと“やったつもり”を退けられます。見た目の清潔と、データで証明できる衛生の二層を運用しましょう。
スコアで“見える化”し、日々回す
フランチャイズではQSCを監査スコアに落とし、SV(スーパーバイザー)やインスペクターが定期・抜き打ちで採点します。合格・要改善・再監査の基準、是正期限、責任者を明確にしてチェック→是正→再確認のサイクルを回すと、短期間で底上げできます。現場は点数を追うだけでなく、原因の特定(人・物・方法・環境)まで踏み込むことが、スコアの“定着”につながります。
最小限のKPI例(現場で使える粒度)
- 品質:規格外率、提供温度逸脱ゼロ日数、仕込みロス率
- 接客:入店〜注文・会計の中央値(秒)、一次解決率、★レビューの直近平均
- 清掃:ATP基準達成率、巡回チェック未実施ゼロ日数、トイレ苦情ゼロ連続日数
“秒”と“動線”で改善する
QSCの問題の多くは、秒単位の無駄と動線エラーに由来します。提供が遅いのは、レジ・提供口・バックヤードの配置が噛み合っていない、清掃が回らないのは、道具の保管場所が遠い——こうした構造問題を先に直すと、教育の効果が跳ね上がります。フランチャイズ本部は標準図面と工数表を持っていますので、型どおりに配置し、秒で測る。これが最短ルートです。
デジタルで“抜け”を減らす
温度・期限・清掃・点検をタブレットでチェックし、写真とタイムスタンプを残すだけで、監査時の説得力が上がります。セルフレジやモバイルオーダーは、待ち時間の分散に効きますが、導入後に“声掛けのタイミングが消えた”などの副作用が出ます。画面ガイダンスや受取口の案内POPを整えるなど、接客体験の再設計を忘れないことが肝心です。
日々の運用(最小構成のリズム)
- 開店前15分:入口・レジ周り・トイレ・ガラスを“見える場所”優先で仕上げ、温度・期限を記録
- ピーク前5分:人員を固定配置に切り替え、声掛けフレーズを共有
- 閉店後15分:レジ締め→廃棄記録→翌日の発注→清掃の写真記録を送信
QSCと収益は直結します
QSCはコストではなく粗利を守る投資です。品質が安定するとロスと再作業が減ります。接客が整うとレビューが上がり、指名検索と再来率が伸びます。清掃が回るとクレームと衛生監査の手戻りが減ります。結果として人時生産性が改善し、同じ人員で売上を捌けるようになります。ランキングや「おすすめ」で強いブランドは、例外なくQSCの運用が強いチェーンです。
つまずきやすいポイントと処方箋
「忙しいから後で」は最大の落とし穴です。忙しい時ほど簡略版の手順を用意しておくと、品質の崩れを最小にできます。たとえば清掃は“見える5点セット”だけを先に回す、接客は“混雑時フレーズ”に統一する、品質は“看板商品の規格だけは絶対崩さない”。すべてを完璧にではなく、優先順位を決めて守るのがコツです。
フランチャイズ本部と加盟店の役割分担
本部はQSC基準、チェックリスト、動画マニュアル、監査・再監査の仕組み、そして良事例の水平展開を整えます。加盟店は基準を日課に落とし、週1のKPIレビューで数値と写真を本部・SVに返す。両者が同じ物差しを持てば、店が増えても体験は揃います。QSCは“現場の礼儀作法”ではなく、ブランドの信用を日々積み上げる技術です。今日の15分を積み重ねるほど、明日の売上は静かに強くなります。