競業避止義務(競業禁止)
ノウハウとブランドを守るための“ブレーキ”。ただし範囲は合理的でなければなりません
競業避止義務とは、フランチャイズ契約で加盟者が同業または近接業種で営業することを一定の範囲で制限する条項です。目的は、本部が投じた商標・ノウハウ・研修投資を短期で模倣されることを防ぎ、チェーン全体のブランド価値(グッドウィル)を守ることにあります。したがって、やみくもに加盟者の自由を奪うものではなく、必要性と相当性が説明できる設計でなければなりません。
どこまでが“競業”か――範囲は4つの軸で決まります
- 期間:契約期間中に加え、終了後も一定期間の制限が置かれます。研修で得た技能がそのまま競合に転用される直後リスクを抑える狙いです。
- 地域:既存店の商圏や本部の出店計画を踏まえ、エリアを限定します。全国一律の広域規制は過剰になりがちで、必要最小限が原則です。
- 対象業態・商品:チェーンの中核商材・提供方法に実質的に代替・競合するものが中心です。単なる周辺サービスまで広げすぎると過度な制約になります。
- 対象行為:自ら開業するだけでなく、役員就任・資本参加・FC指導・コンサルなど実質的な関与も含めるのが一般的です。ネット販売やデリバリー、間借り営業(ポップアップ/キッチンカー)を明記するかどうかも実務上のポイントです。
合理性の考え方――“バランスの取れた歯止め”になっているか
競業避止は、本部の正当利益(ノウハウ・信用の保護)と、加盟者の職業選択・営業の自由のバランスで評価されます。合理的といえる目安は次のとおりです。
- 必要性:具体的にどのノウハウ・信用を守るためかが説明されている。
- 相当性:期間・地域・対象の広さが最小限で、過度な生活制限になっていない。
- 代替可能性:承認を得れば例外を認める手続(同等品の扱い、別業態の可否)が用意されている。
- 補完条項との整合:秘密保持・顧客情報の取り扱い・データ返還など、実害の発生を防ぐ条項とセットで設計されている。
実務での設計と運用のコツ
契約文言では、起算点(いつからカウントするか)を明確にします。一般的には「契約終了日(合意解約・解除を含む)」を起点にしますが、閉店・表示撤去・データ返還など実務の節目とズレると紛争の火種になります。
また、競業避止とは別にノンソリシテーション(従業員・顧客の引き抜き禁止)を置くと、現場の混乱を抑えられます。違反時の対応は是正催告→差止請求→損害賠償・違約金という段階設計が一般的で、加盟者側の事情(重病・家族介護など)を踏まえた個別の猶予・地域限定を合意で設ける運用も有効です。
よくあるグレーゾーン
家族名義や第三者名義での実質的運営、他社でのアルバイトや役員就任、SNSやLINEでの顧客誘導、フードトラックや間借りでの同種販売、OEM/卸としての関与などは、条文が曖昧だと解釈が割れます。「経営・運営・指導・資本参加・広告宣伝による関与」を含めて定義しておくと迷いが減ります。
もし違反したら――何が起きるか
まず書面での是正要求が届きます。応じない場合は、差止め(同種営業の停止)や損害賠償・違約金の請求に進むのが通例です。加盟者は「対象業態ではない」「地域が外れる」「期間が過大」などを主張することになりますが、証拠として契約書・合意解約書・在庫/仕入記録・広告物・SNSログなどが参照されます。いずれも個人情報や営業秘密の取り扱いに配慮し、適法な方法で収集・提出することが前提です。
加盟前に必ず確認したいこと(要点だけ)
- 期間・地域・対象業態/行為の三点セットが具体的な数値・用語で書かれているか。
- 例外承認の手続(書面申請の窓口・審査期限)が明記されているか。
- 合意解約・解除・更新不合意など、終了パターンごとの起算点が揃っているか。
- ノンソリシテーション(顧客・従業員の勧誘禁止)や秘密保持・データ返還と矛盾していないか。
- 違反時の是正手順・違約金・差止めの範囲が過度でないか。
加盟者の“自衛術”
副業や将来の独立を視野に入れるなら、最初の交渉で線引きを言語化しておきましょう。たとえば「○年後に美容院は可だが、カラー専門店は不可」「半径○km内の○品目のみ禁止」「投資家としての少額出資は可」「家族の同業就業は通知で可」など、具体例で合意できると摩擦が起きにくくなります。やむを得ない事情で早期退出が見える場合は、合意解約条項+地域限定の短縮をセットで検討すると現実的です。
まとめ
競業避止義務は、フランチャイズの信用と投資を守るためのブレーキです。ただし、期間・地域・対象・行為の四つの軸で必要最小限に設計され、例外手続と補完条項が整っていることが条件になります。加盟前に条文を自分の将来計画に当てはめて読み、合意文書で線を引いておく。これが、ブランドを守りつつ、オーナーとしての選択肢も守るいちばんの近道です。