キャッシュフロー
「儲かった?」ではなく「残った?」を答える数字です
キャッシュフローは、仕入れて、売って、入金されて、支払って――最終的に手元に残るお金の増減を指します。損益計算書の利益が“概念上の儲け”だとすれば、キャッシュフローは“現金の事実”です。減価償却のようにお金が動かない費用は利益を減らしても現金は減りませんし、逆に借入の元金返済や在庫の前倒し仕入れは利益に出にくくても現金は出ていきます。だから経営の安全性を見るとき、多くの本部や金融機関はまずキャッシュフローを確認します。
フランチャイズ特有のキャッシュフローの癖
フランチャイズでは、本部精算(オープン・アカウント)により、売上から仕入・ロイヤリティ・広告分担・システム料などが差し引かれ、差額が入金される方式が一般的です。ここで注意したいのは、家賃・給与・光熱費など店舗固有の支払い時期と、この差額入金のタイミングがズレやすいことです。さらに、キャッシュレス売上は入金が数日〜数週間遅れるため、今週は忙しくても今月の現金が薄い、という事態が起きます。
加えて、季節変動(繁忙期の一括仕入れ)、賞与や保険・システムの年払い、消費税・源泉税の納付など塊で出ていくお金がある一方で、前売り・回数券・サブスクなど先に入るお金(前受金)もあり得ます。利益と現金は別ものとして設計する発想が欠かせません。
まず押さえるべき三つの“見える化”
1つ目は手元資金の残高、2つ目は今後4週間の確定出金(給与・家賃・税金等)、3つ目は入金予定(本部精算・カード入金・補助金等)です。これを13週間(約3か月)の資金繰り表に並べ、毎週アップデートすると“資金の谷”が前もって見え、対策が打てます。月次決算より週次のキャッシュ目線が効きます。
小さな数値例でイメージを掴む
たとえば月商500万円、現金売上60%(即日入金)、カード売上40%(翌月入金)。原価率55%、ロイヤリティは粗利の40%、人件費120万円、家賃40万円、光熱通信15万円とします。
- 今月の売上入金(現金分のみ):300万円
- 仕入の支払(今月分):275万円(=500×55%)
- 粗利:225万円 → ロイヤリティ:90万円(=225×40%)
- 人件費・家賃・光熱:175万円(=120+40+15)
今月の入出金だけ切り出すと、入金300万円 − 支出(275+90+175)= −240万円。来月になれば今月のカード分200万円が入るので平準化しますが、今月は資金の谷になります。利益の論理では黒字でも、現金が足りない(黒字倒産リスク)が起こり得るのはこのズレが原因です。
よくある“落とし穴”
- 在庫の先行積み増しで現金が倉庫に眠る(利益は出ていてもキャッシュは減る)
- カード入金の遅延や入金サイクルの読み違い(週締め・月締めの違い)
- 本部精算の控除項目(備品・販促・立替)が増えているのに見落とす
- 税金・賞与・年払いサブスクの資金取り置きがない
- 借入の元金返済を損益のつもりで考えてしまう(利益に出ないが現金は減る)
改善の打ち手(“今ある店”でできる順番)
- 入金を早く:カードの早期入金オプション、即時決済比率を上げる、前受の活用(回数券・サブスク)を“履行能力の範囲で”設計します。
- 出金を遅く:仕入の支払サイト見直し、家賃の支払日調整、リース化で月次平準化。年払いは月割に交渉します。
- 在庫を軽く:発注点の見直し、ABC在庫の死に筋圧縮、廃棄の可視化でキャッシュコンバージョンサイクル(CCC)を短縮します。
- 固定費をバッファ化:固定費2〜3か月分を“手元資金口座”にキープし、精算口座と分けて見落としを防ぎます。
- ダッシュボード:日次で「残高/今週の入金/今週の出金/翌週の谷」をスマホで見られる形にすると、判断が早くなります。
会計上のキャッシュフローとの付き合い方
決算書のキャッシュフロー計算書は、営業・投資・財務の三区分で年間の資金の増減を示します。店舗運営の感覚に近いのは営業キャッシュフローで、在庫や未払・未収の変動がここに効きます。設備更新や新店の出資は投資キャッシュフロー、借入・返済や配当は財務キャッシュフローです。日々の資金繰り(週次)と、会計のキャッシュフロー(四半期・年次)を二階建てで見ると意思決定が安定します。
「自由に使えるお金」はどれか
現場で言う「自由に使える資金」は、手元現預金 −(今後4週間の確定出金)+(同期間の確定入金)のことが多いです。これがマイナスに落ちそうなら、発注・販促・シフトの即効性のある調整を先に打ち、必要なら短期のつなぎ資金(当座・カード早期入金・割引手形等)で“谷”を浅くします。つなぎを繰り返すのではなく、構造(在庫・サイト・固定費)から直すのが王道です。
フランチャイズ本部との連携
精算書の締め日・入金日・控除項目を契約で明確にし、異常値はSVへ即共有します。販促や価格改定のタイミングが資金の谷と重なると危険なので、13週表を見せながら実施時期を相談すると無理が減ります。補助金や共同購買のタイミングも、キャッシュの観点で合わせてもらうと効果が高まります。
まとめ
キャッシュフローは、店舗の“呼吸”そのものです。利益は意志、キャッシュは現実。週次の見える化と小さな調整を積み重ねれば、忙しさと残高のズレは必ず縮まります。フランチャイズの仕組み(本部精算・ロイヤリティ・指定システム)を理解し、入出金の谷を事前に浅くする。これが、黒字を確実な現金に変える最短ルートです。