機会ロス
「売れるはずだったのに売れなかった」——在庫・席数・人員の不足で失う収益
機会ロスは、本来なら需要があり売れたはずの商機を、在庫・席数・人員・設備の不足や運用不備で逃してしまうことを指します。小売では棚に商品がない(OOS:Out of Stock)、バックヤードに在庫があるのに棚出しされていない(ファントム在庫)などが典型です。飲食・サービスでは満席や受付停止、待ち時間の長さによる離脱、スタッフや設備の能力不足が該当します。見えにくい損失ですが、累積すると粗利と再来率に直結します。
よくある原因(最小限)
- 需要予測と発注のズレ:新商品・天候・イベント反応の読み違い、リードタイム超過、仕入れ上限の設定ミス。
- 棚・動線の運用不備:バックヤードに在庫があるのに棚が空、棚割(プラノグラム)未遵守、フェース数不足、前出し未実施。
- 能力制約(キャパシティ):ピーク時のレジ台数不足、キッチンのボトルネック、席回転の遅れ、要員配置の偏り。
- チャネル間の不整合:ECは在庫あり、店舗は欠品/モバイルオーダー停止など、在庫引当の設計ミス。
どう測るか——“見えない損失”の見える化
機会ロスは推定が基本です。小売なら「通常日の販売パターン」や「他店・他時間帯の代替データ」から、欠品していた時間帯の潜在販売を補完します。飲食なら入店断り件数(Turnaway)や行列離脱率、席稼働率、キッチンスループットで推定します。
主な指標と簡易計算(最小限)
- OOS率(欠品率)= 欠品SKU×欠品時間 ÷(全SKU×営業時間)
- 推定ロス売上 ≒ 需要(通常販売/時間)× 欠品時間 × 代替率補正
- 推定ロス粗利 ≒ 推定ロス売上 × 粗利率
- Turnaway率(飲食)= 断り件数 ÷ 来店総数
- 席稼働率= 実入客数×平均滞在時間 ÷(席数×営業時間)
※「代替率」は、欠品時に他商品に置き換わる割合です。代替率が高いと売上ロスは小さく、粗利ミックスの悪化(安い方へシフト)が目立ちます。
小売の実務——“棚で売る”仕組みを強くする
需要予測だけを磨いても、棚に出ていなければ売れません。発注→入荷→バックヤード→棚出しの補充サイクルを短くし、ピーク前に前出し・フェース確保を終える運用へ。バックヤード在庫比率、棚割遵守率、補充遅延件数を日次で可視化すると、すぐに改善が回ります。
季節・天候・SNS反応に連動するSKUは安全在庫を厚めにし、売れ筋はフェース拡大でリスクヘッジ。自動発注(Min-Max)は“Maxが小さすぎる”誤設定が頻出です。ピーク日のMaxを上げ、朝・昼・夕の3便補充が理想です。
飲食の実務——“席と厨房の秒を揃える”
飲食の機会ロスは、席数より厨房の処理能力で生じます。ボトルネック工程(揚げ・焼き・盛り付け)の1オーダー当たり秒数を測り、ピーク15分当たりの最大処理数を算出。これを超える予約やモバイル受注を抑制し、仕込み前倒し・バッチ化・メニューの段取り替えでスループットを引き上げます。
待ち時間の離脱は情報の不確実性が主因です。受付時に目安時間の提示と段階通知を行えば、同じ待ち時間でも離脱は減ります。席回転は会計方式(テーブル会計→先会計)やセルフ清掃導線で短縮できます。
フランチャイズならではの設計
本部はプラノグラム・フェース標準・自動発注パラメータ・プロモ在庫基準を提供し、SV・インスペクターが棚割遵守と補充頻度を監査します。加盟店は日次で“棚の空き時間”を記録し、本部の予測と差分学習を回すと精度が伸びます。飲食は標準図面(動線)×標準工数が土台。繁忙日の限定メニュー化や事前決済比率アップは、少人数でも機会ロスを圧縮する定番手です。
すぐ効く現場の打ち手(用途別)
- 小売:売れ筋だけでも「朝ピーク前の棚充足100%」をKPI化。バックヤード在庫に赤タグを貼り、未展開のまま一定時間が過ぎたらアラート。端末で棚画像を添付して是正を早めます。
- 飲食:ピーク前にオーダーを“組み合わせ”で先読み(同時調理で段取り最適化)。ラストオーダー前の受注制御や“売切表示”を早めに出し、待ち時間の透明化で離脱を減らします。
数字に落とす——投資判断のものさし
機器増設や人員追加はコストですが、機会ロス粗利>追加コストなら投資は正当化できます。
例)推定ロス粗利月20万円、追加人件費月12万円→差引+8万円。繁忙期の3か月だけ増員、など期間限定の変動化も有効です。
まとめ
機会ロスは「品切れ」だけではなく、棚出しの遅れ・席回転の遅さ・キッチンの詰まり・待ち時間の不透明さが生む“見えない損失”です。予測と在庫だけでなく、補充・動線・秒を正し、日次で可視化→即是正のサイクルを回すこと。フランチャイズでは、本部の標準と現場の運用を噛み合わせた店ほど、売上ではなく取りこぼした粗利を素早く回収できます。